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浅野 晴道 (あさの はるみち) さん
◆ 如雪庵一色 店主
 
  
◆ 「名人の哲学をそこに見た」
 葉山町御用邸の前に、ひっそりと静かなたたずまいのなか「如雪庵一色」は名人の哲学を息づかせている。日本人として行きつけの「そば屋」を自慢できることは幸せである。更に、その店の味が日本一と確信できるのは至福とも云える。そのような意味で、一色の店主を友人として紹介できるのは誇りである。

牧島: この地に店を構えて何年になりますか。

浅野: 母の実家のこの地に一色を開店したのは、昭和51年、まもなく25年になります。

牧島: 最初から「そば職人」ではなかったのですね。

浅野: 父は東京で後藤新平さんの都市計画を担当したそうです。しかし、私が5歳のとき事故で死亡し、その後、弟2人とともに母に育てられました。

牧島: それがどうして「そば」に。

浅野: 一時、サラリーマンになりましたが「そば」に興味があり、職人を目指して、いろいろな店 で修業しました。ところが最近は機械で「そば」をひく店ばかりで、これは本物ではないと内心苦悩していました。

牧島: それで自立を決意するのですね。

浅野: 何といっても高瀬先生(早大教授)との出会いがすべてですね。私にとって数多くの人々とのふれあいがありますが、高瀬先生は恩人とも云える人です。

牧島: 高瀬先生は数学者で大学の教授ですね。

浅野: そうです。臼やかま、焼物、骨董にも詳しくて「そば」の研究や造詣に関しては日本一の方です。

牧島: 雑誌やテレビでもときどきお見かけしますね。

浅野: この高瀬先生と出会い、全国各地、北海道、北関東、長野、九州と文字どおり美味いそばがあると聞けば訪ね、食べ、語り、とびまわりました。

牧島: それで腕を磨き「そば」の真髄を極め、自らの味の発表となったのですね。

浅野: そんな大げさなものではないのですが、私の「そば」が一番の確信はあります。

牧島: 「そば」にとって一番大切なものは。

浅野: まずはなんといっても原料(そばの実、粉)です。そばの粉は生きているので素材が第1です。次に手法です。打って、あげる、この手順が大切なのです。特に、そばを石臼でたんねんにひく、素材をひきだすには、愛情込めてひくことが必要なのです。

牧島: それはそうですね。やっぱり「ひきたて」「打ちたて」「揚げたて」が・・・。

浅野: 私もそう信じていました。しかし、いろいろやってみると必ずしもそうではない。それで今でも少し悩んでいるのです。

牧島: えっ、悩みがあるのですか。

浅野: 裏磐梯のすばらしい粒を手にした時、素晴らしい素材に感動しました。早速、石うすでひいて、すぐに打ち、かまで揚げました。絶対の自信をもっていたのですが、そばの「面」が納得できないのです。

牧島: 香りや色でなくて「面」ですか。

浅野: そうです「面」です。よくTVなどで打つときの香りが一番とか、こしがどうとかいっている方もいますが、私は釜からあげたときの「面」顔、イメージ、そば全体の感性。これがそばの全てだと思っていますので・・・。

牧島: その面がよくない?

浅野: そうなんです。暫く時間をおいて打ち、そしてあげる。こう工夫してみたら期待どおりの「面」がみえたのです。

牧島: すぐ打たず、あげずですか?

浅野: ひきたてを2、3日、そして打ちたてを2、3時間こうして時をかけた時の方が面がいい。

牧島: 定説に反しますね。

浅野: それで悩みました。いろいろと地方のそば打ちの話を聞くと、「そば」は生きている。しかも生ものだから発酵するのが自然だ。ちょっと活発な活動した粉の方がよい。打ったらそばが落ちつく瞬間(とき)が必要。その方がそばのためによい。こんなことを言う人もいるのです。店をひらいていなくとも地方の名人のなかで、家で食す「そば」をそうしている人がいることが解かり、自分ではこれで良しと信じています。

牧島: よく解りませんが、少し理解できた気がします。ところでいろいろな方々がお店を訪れていますね。最近、山下洋輔さんの記事を読ませていただきました。

浅野: お蔭様で可愛がってもらっています。古くは中曽根さんもいらっしゃいました。山下さんはよくお見えになります。この店を始めて間もない頃、今は亡き 里見淳先生、堀口大学先生、小林秀雄先生が酒をくみ交わし大放談をしました。酒席も盛り上がり最後に「そば」を出したとき、仲々小林先生が手をつけられません。家内が「そば」がのびますからと申し上げたところ「そばは面をみればわかる」とおっしゃいました。この言葉は今でも鮮明に憶えています。胸にぐさっときましたね。先程もいったように、私は釜からあげて水でさらして現れてくる「そば」の面を見る瞬間が一番だと思っています。それは陶工が土を練り、ひねり、形づくり、焼き、窯出し、その顔を見る緊張と同じことだと思うのです。「そば」を通じて、いろいろな方と巡り合えるのは私の財産です。

牧島: お客様に何か要望はありますか。

浅野: 何もありません。お客様には是非そばをさかなに美味い酒を飲む、そして素晴らしい会話を楽しんでいただければと思います。

牧島: そういえば、ご主人は鎌倉の清酒研究会の幹事さんでしたね。今日はごちそう様でした。

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